Vol. 2 「産地のこれから」

消えゆく技術、消えゆく原材料

墨の需要が激減しているお話は前回お伝えした通りですが、需要減に際し、当然のことながら墨作りにおいて長い間培われてきた技術や原材料も徐々に消えようとしています。
そしてそれは、産地に携わる人の今後にも深く影響していきます。
そこで錦光園では、墨のことを1人でも多くの方に知って頂く為、そして何よりこれからの産地復興の解決策を模索していく為にある活動をしています。
それが「奈良墨のひと」です。
「奈良墨のひと」は普段は表舞台には出てこられない、陰で産地を支えてくれている職人さんや関係者の方にスポットを当て取材させて頂き、その方達の想いを少しでも世に届けようとする取り組みです。

  • 墨型彫刻師 中村雅峯(なかむらがほう)
  • 奈良墨磨業 鈴木育弘(すずきいくひろ)
  • 紀州松煙 堀池雅夫(ほりいけまさお)

特殊な製造工程

「奈良墨のひと」のことをお伝えする前に、こういった業界ならではの製造体制に関してのお話をする必要があります。
他の伝統工芸の業界にもよくある話ですが、この業界は1つの商品を作り上げるにあたり、各製造工程において分業体制を取る場合が往々にしてあります。
またその分業体制に関してですが、必ずしも1つの同じ社内で全ての分業が完結するのではなく、一部の分業個所を別の事業者さんに依頼する場合が多々あります。
生産量が現在に比べ圧倒的に多かった時代の名残りもあり、墨屋業界は今でもその風習が残っています。
ただ、昨今の生産量の激減により、これまで各墨屋さんから分業の仕事を請け負ってきた事業者さん達の仕事がどんどん減ってきてしまい先行きが大変厳しい状況におかれつつあります。

  • 作業風景
  • 作業風景
  • 作業風景

産地の将来

「業界の関係者が同じ業界の関係者に取材」というのも若干おかしな話ではあります。
ただ「奈良墨のひと」で取り上げるテーマは、当然世の中に向けて、1人でも多くの方に墨のことを知って欲しいという願いを込めていますが、それとは別にあともう一つの意味合いがあります。 それは、自分達のような産地に関わる人間が、自分達の産地の将来をもっと深く考えていかなくてはいけないというアンチテーゼを含んでいます。
陰に徹し、産地を深く支えてきた職人さんや関係者の方達に敬意を表しつつ、その方達の話から産地の将来を踏まえ、自分達はどういう行動をしていくべきかをこの「奈良墨のひと」を通し、しっかりと考えていきたいと思っています。

「奈良墨のひと」へ